天空の迷路。

■鋼の血管

湧き出るように何層と重なりながら、繊細で複雑な陰影を作るその迷路に気が付いたのは、物心目覚めた子供の頃。
それは、突然現れたかと思うと不思議な角度で急に折れ曲がり、枝分かれし、気侭に踊り泳ぐようにその姿を変える。
壁一面を蔦のように這う姿を目で追っていると、いつかその先の知らない世界へとそっと連れて行ってくれるような気がした。
やがて、街角で、海で、山で、偶然出会うその造形が見せる不思議な情景に心惹かれながら時は過ぎ、今もプラントを眺める時に欠かせない大きな要素となって残る。

工業地帯を歩く時、見上げる視線の先を縦横と折り重なった様々な太さの管(パイプ)が走る。
頭上で、真横で、足下で、内なる力を秘めて連なるその姿を追い進む足取りを、いつも軽快に導いてくれる。
人の背丈程もある直径で構内を威圧する管、細く束になり色を変え離合集散しながら十重二十重と入り組む管、背の高い蒸留塔に絡み付きながら天空を目指す管、整然と並びながら地を這う様に彼方を目指す管、端から水蒸気を高音と共に吹き出す管…、何処からともなく現れては立体に絡み合い、遙か視線の果てまで続いて行く。
時に気体を、時に液体を身に通し、気侭に交わり併走しながら、広大な構内を遠く高く何処までも旅する。
その隙間を目を凝らす先に見えて来る無機質な風景は無限と終りなき世界へ誘うようで、暫く留まって見詰めていると、意識が日常から解離し幻想的な様相を呈して来る。
『あの管は、何処から来て何処へ行くのだろう』
そんな他愛ない気持ちを胸に、涼しい風に押されるようにして今日も工場を彷徨い続ける。

(写真/プラントの合間を走る配管)