暖かな時の中で。

横浜プリンスより眺める

■チーズと港

朱い太陽が水平線へと消え落ちる時間が早くなり始めると、どれだけ防寒対策に心を配っても、長時間の徒歩や自転車での工場散策は身体の芯に応えるようになる。
それでも、凛と響く空気の中に佇むプラントの綺麗さに心惹かれて、何度と足を運んでしまう季節。
そんな最中、港が一望できるホテルに泊まり、一晩中コンビナートの雄壮な景色を眺めながらお酒を飲まないかとの魅力的な御誘いを受ける。
職場に泊まり込みながら瞬く間に迎えた当日は、各々授業や仕事が一段落する夕方から順に集まって、磯子から根岸一帯に広がる眺めを堪能できる横浜プリンスを一路目差す。
過去に何度かホテル脇より遠く広がる景観を眼にした事はあったが、上層階から見下ろすのは全員今回が初めての体験。
総勢5名はそれぞれに好みの酒や肴を持ち寄って1階のホールにて落ち合い、久し振りに揃った顔触れは賑やかに挨拶を交しながらエレベーターで部屋へと向かう。
逸る気持ちに急かされる様に扉を開けると、そこには窓一面に港の灯りが眩い程の重なりとなって輝いていた。
早速、各々鞄より取り出した瓶や皿をテーブルへ並べ、椅子やベッドに場所を見付けて準備が整った後は、先ずワインの乾杯で宴の始まり。
そうして、癖の強いチーズと香りが綺麗な日本酒を手に、気が付けば部屋の灯りも落としながら、如何に工場が形作る景観が素晴らしいかを、僅かな月明かりの中で熱く弾むように語り合う。
結局、深夜まで続いた穏やかな宴会は、朝焼けの中に佇むコンビナートに心奪われながら、静かに御開きとなる。
爽やかな空気の中で余韻を楽しむ様に朝食を採り、別れ際には次の開催を笑顔で約束して、仕事先へと戻る列車の待つホームへと歩き始めた。

(写真/朝焼けに佇む南横浜火力発電所)