《冬のコンビナート巡り》/2

直径34mのパラボラアンテナ

■褐色の船

出航時刻寸前に港へ到着したもう1台の組と無事に合流して乗り込むと、遊覧船が間髪入れずに岸を離れる。
期待に胸膨らませた一行が最初に向かったのは、綺麗なタンクの立ち並ぶ化学コンビナート。
雄壮な景観と歩調を合わせる様に流れる説明放送を聴きながら幾分狭いデッキでゆっくり寛いでいると、船内から賑やかに家族連れが駆け出して来る。
続いて、溶鉱炉と同じ色に全身を染めた、十分に年期を感じる巨大な船舶の真横を掠める様に進む。
製鉄所に隣接した様々な個性溢れるクレーンが力強く作業している様子に目を奪われていると、横で他の参加者達が自分以上に熱心な視線を投げ掛けている事に気付く。
1人での工場散策だけでは体験出来ない、大勢の誰かと無言の一体感を覚える一瞬は、何物にも代え難い貴重な時間だと、改めて心に刻む。
そうして、意外と狭く感じる湾内を順に一周し、下から間近に仰ぎ見る鋼鉄の世界に圧倒されながら、溜め息が溢れる程に魅力的な船旅は終了。
そこからは再度2台の車に分れ、直径34mのパラボラアンテナが地響き立てて回転する姿や、製鉄所から間欠的に豪快な白煙が上がる姿を間近に見上げて歩いていると、広い空の中を穏やかに陽が傾いて行く。
そうして、夜の帳が港へ静かに降りてくる様子を眺める為に、一帯を見下ろせる場所へと皆を乗せた車は一路向かった。 【続く】

(写真/無骨な景観が魅力の住友金属鹿島製鉄所)