いつか見た憧れの灯火。/1

以前も訪れたお気に入りの場所を夜景で

■静謐なる聖地

工場コミュニティで知り合って過去何度か工場観光を御一緒している相手から実家のある鈴鹿へ車で帰省するとの話を聞き、御好意に甘えて途中の四日市まで送って貰う事に決まる。
この方は以前に四日市のコンビナートで仕事をされた経験があり、今年3月にも素晴らしく内容の詰まった案内をしていただいたが、今回も土地勘の薄いこちらの為に少し御付合いを御願いして、深夜から聖地巡礼の旅が幕を開ける。
泊まり込み続く仕事先近くで合流した後、2時間置きの休憩を挟んで暗闇の中を一路西へと進む。
仕事の疲れから途中より意識が途切れてしまった同行者を気遣う静かな声で目が覚めると、前回四日市を去る時に振り返って1番最後に触れたプラントが、懐かしく目の前に佇んでいる。
車より足を踏み出し、斑に連なる金属の頂へ心の中で言葉を掛け、自然と湧き上がる笑顔のまま早速2人で散策を開始。
想い出の場所を前回の確認をするように静かに歩くと、徐々に過去の記憶が鮮明となって来る。
日の出を控えた空気は凛と澄んでいて、暫く身が引き締まる気持ちを抱きながら闇を覆う白煙を眺め歩き、続いて夜景としては初めて対面するお気に入りの場所へと向かう。
そうして移動する車の助手席に腰掛けながら事前に色々と想像していたが、そこで待ち受けていたのはその全てを凌駕する素晴らしい光景だった。
闇色のプラントを照らし斑に浮かび上がらせる作業灯を目で追いながら、自分がどれ程までに工場の創り出す深い陰影に心惹かれて来たかを改めて考えていると、時間が瞬く間に消えて行く。
続いて、少し引き返した名古屋港に広がる臨海工場地帯を探索しようと云う相手の提案を受け容れ、名残を惜しみながらも日の出に間に合わせる為に急いで車へと走った。
【続く】

(写真/以前も訪れたお気に入りの場所を夜景で)