釣り人達の楽園【番外編:巨大施設見学⑤】

防災センターでの火災訓練

■幻の島へ

今年の6月末、多くの人に惜しまれながらも一般人の渡航が出来なくなった1つの島がある。
それは、明治〜大正時代に掛けて旧陸軍が東京湾口に建造した3つの人工要塞島の中で最も人気の高かった《第二海堡》と呼ばれる場所。
(因みに、《第一海堡》は富津岬から泳いでも渡れそうな場所にある1番小さな島、《第三海堡》は完成僅か2年後の関東大震災で壊滅的被害を被って水没、そのまま船を座礁させる障害物となってしまった為に、現在は東京湾口航路整備事業で撤去作業が進行中。)
多くの釣り人や廃墟系特撮系ファンに長年親しまれて来たこの《第二海堡》も、建造物の老朽化が著しい事を理由に遂に立ち入り制限が決定、今後は戦跡及びここを管理している海上保安庁の施設だけが残る島となる。
ここが急遽一般観光客に閉鎖されると云う話を聞いて、釣り客で賑わう定期便を利用し早朝から訪れると、そこには地震と風化でパラパラに寸断された要塞跡と、その上に近年建てられた灯台や防災センター等と云った海上保安庁の建物が同居する不思議な世界が広がっていた。
30年も此処に通い、毎年の正月もこの《第二海堡》に泊まり込んで過ごして来たと云う穏やかな親父さんを始め、各々好きな場所に糸を垂らす釣り人達に混ざって風景を楽しんでいると、そこへ物々しい格好をした一群が大きな船を接岸して次々と上陸。
それでも海風に吹かれながら余り気にせず防空壕や砲台の跡を見て歩いていたが、突然直ぐ間近な所から凄い勢いで黒煙が上がる。
火元を追って急ぎ目を向けると、どうやら島の中央に位置する(石油化学コンビナートの一部を模したような)防災センターの施設で、新人研修の消火訓練が始まっている。
暫く砲台の上に座りその様子を軽い食事をしながら眺めていると、やがて真剣で激しい訓練は最後に全員の記念撮影を行なって無事に終了。
徐々に強くなる日差しの中を進む迎えの船の姿が遠くに見えて来たので、急ぎカメラとゴミを鞄に詰め込み、まだ誰も帰ろうとはしない釣り人達を横目に1人桟橋へと走った。

(写真/第二海堡中央に建つ灯台を眺める)

(写真/国土交通省のサイトより、昭和52年度の第二海堡空撮画像)